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片山喜章のページ ~思い・願い・提言~

週刊メッセージ“ユナタン7-47

2018年7月25日 水曜日

【ユナタン8-48】
~ してあげる or させてあげる ~

2018年7月25日 片山喜章

「日本社会は乳幼児が元々持っている能力について理解していない。親でさえ我が子をコドモ扱いしている」とこれまで吠えてきました。なぜなら、子どもの人としての知的好奇心や探求心は脳内で活発にはたらいていても、実際、現れ出る姿は大人社会において「汚い、危ない、ふざけ」と映るからです。保育士も同じようにその子なりに試している姿を“危なそうだから”=禁止するケースが多数です。
リスク回避とは、リスクを奪うことではなくリスクとうまく対峙させることですがその発想には至らない。これこそ教育・保育に限らず日本のリスクです。

今月20日、ニュージランド視察に行った法人の人たちから報告がありました。どの園も園庭にたくさんの石ころが所定の場所に設定されている。しかし石ころは大小様々だけどすべて丸みのあるものばかり。ドイツ(私が見たのはミュンヘン)や北欧ではふつうの園庭の光景です。国内において2歳児がハサミを使う姿を見て「危険、時期尚早」と感じる園と「この時期に経験し3歳児になれば自分のペースでハサミを駆使して探求心を形にする」と評価する園に分かれます。保育というよりも安全に対する基本的な捉え方の差であり根本的な人生観のテーマです。

もう1つ、乳児の知性や関係性の育ちにおいて未発見のことがたくさんあります。『状況』に接して何とかしようと考える思考の中身についてです。1、2歳児12人をワンルームの部屋で保育する小規模保育園「なのは乳児園」での物語です。
「あら~、ヨシ君また鼻出てる~」と担任が近づくと、そこに2歳児のルミもついてきました。手にはティッシュペーパーの箱を持っています。担任が“ありがとう”というや否やルミはティッシュを取り出してヨシ君の鼻を拭いてあげたのです。ヨシ君は嬉しそうに“されるがまま”でした。担任は「ありがとうルミちゃん」とお礼を言いました。その後、しばらくしてトイレから声が聞こえてきます。
「できな~い」ナリエの声です。担任は声の方に向かいます。その後をルミもまたついていきました。目に入ったのはナリエのパンツとズボンです。裏と表がぐっちゃぐちゃにねじれて、見ているだけでイライラッとなる状態でした。
「ナリエちゃん、なおしたろか」ルミが声をかけます。ルミは座り込んでナリエのパンツを手にしたその時、「やめて、じぶんでするから!」とナリエは声を荒げたのです“助けを求めたの、アンタでしょ?!…”ルミの表情は曇ります。
そこで担任は「ナリエちゃん自分で履くんだって、ルミちゃん、ありがとね」とねぎらいの言葉をかけました。ルミはがっかりした表情でその場を去りました。
ルミがその場から立ち去ろうした瞬間、ナリエは「できなあ~い」と叫びます。その声に反応してルミは即リターン。「ルミがやったる」とナリエに迫りました。しかしまたまたナリエは「じぶんでする~!」と言い返します。2人は、裏と表がひっくりかえった花柄のパンツの取り合いをはじめました。
「手伝ってあげたいルミ」「日頃からライバル意識をもっているルミには手伝ってほしくないナリエ」「自分でしたい」「が、できない」単なる2人の2歳児の姿ではなくて2つの尊厳をもった人格のぶつかりあいと見ていただきたいものです。

この場の殺気を少し離れたところで感じたヨシ君がやってきました。「ナリエちゃん、パンツ履けなくて困っているからルミちゃんが手伝ってあげるって言ったんだけど…ナリエちゃん嫌みたいなの。どうしよう…」と担任はヨシ君に窮状を説明しました。すると「ヨシがやったるわ」と、2人が取り合うパンツではなくて、その向こう側にあるズボンを拾いました。「はあ~?」2人は呆然。ヨシ君は使命感満載。ズボンの裏と表を上手にひっくり返して“どうだ”と言わんばかりに得意気になるヨシ君の姿にぐっちゃぐちゃの気持ちが戻ったのか2人とも笑い始めました。
「じゃぁ、パンツはどうする?」と担任が尋ねるとルミは「ルミがやったる」と言うとナリエは気持ちを切り換えて“上からトーン”で「じゃぁ、ルミちゃん」と命じました。ルミは、すこし手間取りながら、しかし笑みを絶やすことなくナリエのパンツを履けるように整えました。

パンツとズボンはほどよくナリエの前に並べられ、ナリエさんお着替え~。ルミもヨシ君も絵に描いたように「がんばれ~」と応援します。2人の応援を受けながらナリエは「う・う・ちょっと上がらないな」とつぶやく。汗で上がりにくい状態になっていました。どうする?と担任が心配する間もなく、ルミが前を、ヨシ君が後ろにまわって持ち上げました。お神輿を担ぐような、3人相撲をしているような、3人が1つの事を成そうとする賢明な姿を微笑ましく見るのは失礼な気がします。
最後は、ズボンの裾を見つめながら「(足)出てくるかな?」と慎重に事をすすめて「やった~!!」と歓喜の瞬間が訪れたのでした。2歳児どうしの姿です。広くない部屋ならではの関係性の育ちです。この3人3様の複雑な心模様から私たち大人こそ社会のあり方や世界のあり方を考え」直さなきゃ、と感じた事例でした。
【資料提供:なのは乳児園(小規模):藤本裕美】 ※ 8月はお休みします。