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片山喜章のページ ~思い・願い・提言~

週刊メッセージ“ユナタン5-45”

2018年6月13日 水曜日

【ユナタン45】
~ おまけの おまけの きしゃぽっぽ(ノンタンシリーズより) ~

2018年6月13日  片山喜章

5月の晴れた日、3歳児クラス黄組は隣接する公園に出かけました。公園にはブランコがあります。4台のブランコは行儀良く並んでいました。そこへ子どもたちがどっと群がります。園にはない遊具なのでトラブルが予想されます。ということは保育として好機が訪れたと解釈できます。サリーは“自分が!乗りたい”という思いを強く現わして友達を次々に跳ねつけます。友達に向けて手を振り上げようとしたその時、先生はその手をつかんで止めました。するとサリーはその手を払いのけて睨みつけます。サリーの目からは涙がこぼれています。憤りやら悔しさやら自戒の念やらが混じりあって胸がいっぱいです。そして、思いのすべてを吐き出すように「バーカ」と言い放って別の場所に駆けだしたのでした。

 5分くらい時間が過ぎて、サリーはまたブランコのところに戻ってきました。
“やっぱりブランコに乗りたい”。でもブランコに乗るには“友達に乱暴に振る舞ってならない”。けれども早々に素直にはなれない。それでも“素直にならないとブランコには乗れない”。“友達は受け入れてくれるかな”“どうしよう”。 
少しの間、ジトっとブランコを漕いでいる友達を眺めていました。サリーなりの葛藤が痛いほど伝わってきます。サリーは意を決したのか、強い調子で「貸~し~て!」と言いました。友達は知らんふりです。ふたたび「貸~し~て」。やはり返事がありません。サリーがベソをかくような表情で立ち尽くしていると隣のブランコの前にいたベティが「キキちゃん、そろそろ替わってもらえる?」とお願いする声が聞こえました。キキは「いいよ~」と返事をし、すぐに交替したのでした。

その様子をじっと見ていたサリーにとっては驚きの光景だったかもしれません。
サリーは思案して…しかし思い切って「ララちゃん、そろそろかわってもらえる?」と言葉にしました。その言い方は穏やかでした。ララはサリーの顔を見つめて一瞬、間をおいて「いいよ」と返しました。で、さっとサリーと替わってあげたのでした。 
なぜでしょう。ある程度、ブランコに乗って満足したからでしょうか。少し飽きたからでしょうか。さっき乱暴だったサリーが今度は殊勝な表情をしているのを見て譲ってあげようと感じとったのでしょうか。いずれにしても先生の介添えが無い状況でしぜんに“交替しよう”という空気と気持ちが生れたのでした。
念願のブランコに乗れた事とララに替わってもらえた事が相まってサリーは嬉々とした表情でブランコを漕ぐことができました。すると隣のブランコから「わあ~」と笑い声がします。キキがベティの背中を押してブランコが大きく揺れたのです。笑い声は連鎖を誘引します。その隣でも待っている子が漕いでいる子の背中を押しました。サリーも「だれか、おして~」と声を張り上げます。何人かの子が近寄ってきました。サリーは背中を押してもらってご機嫌です。しばらくすると端っこのブランコから「こうた~い」の声がしました。交替する行為も連鎖します。わずか15分前に「バーカ」と毒づいていたサリーも交替してあげていました。

「交替する」「順番を守る」などの規範は「お題目」のようにくり返し言ってきかせることで体得できると信じる人は年配に限らず若い世代にも多いです。「型の文化」 「形」を重んじる慣習などの日本の文化をそのまま人間教育にも当てはめようとする教育関係者の思考そのものが誤謬であり教育界の怠慢だと思います。それが結果的に逆効果になっているのが現代です。不祥事続きの国や企業や部活の組織文化の根底にあるのは、真の規範意識の希薄さと事なかれ主義と上意下達の価値観です。“思いやり”を授受し合う体験と関係性が規範意識を育むと考えたいですね。

「ブランコは順番に交替して乗りましょう」という言葉はどんな子でも頭の中で理解できます。時には叱られて頭で理解しても心持ちとして人間性のなかに溶け込まなければ育まれないと思います。この日のサリーの体験はどうだったでしょう。
元々サリーの中で眠っていた規範意識が仲間たちとの物語によって浮かび上がったように思います。乱暴な振る舞いが改まらない子どもの姿は、その時々の気持ちに寄り添えなかった大人たちの振る舞いの賜物でしょう。現代社会に適応できていないのは、成熟が待望されるのは、多数派を占める今の大人たちの人間性です。

その後、公園では1台のブランコに複数の子どもたちが群がっていました。順番を待つ子も増えています。「順番なんやで~。背中押して~、順番なんやで~」といきいきと響いていたのはあのサリーの声でした。先生から教えられた言葉としての「じゅんばん」を叫んでいるのではなくて“順番を守ることでみんなが同じように楽しめるんだ”と体感しそれを全身で表現している、そんな感じ方、受けとめ方ができる大人に育ちたいものです。   【資料提供:いけだすみれこども園:溝上宏子】
※ 次回、6月27日の事例提供は世田谷はっと保育園です。