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片山喜章のページ ~思い・願い・提言~

週刊メッセージ“ユナタン3-43”

2018年5月9日 水曜日

【ユナタン3-43】
~ 取り合い~譲り~譲られる葛藤 ~

2018年5月9日  片山喜章(理事長)

「道徳」が教科になったことで様々な議論が巻き起こっています。昨今の世界情勢や政治問題、企業の不祥事を見聞きしている子どもたちは、何を感じているでしょう。とりあえず大人の前ではお利口さんに振る舞う術を会得し、ある時期、ある場面で爆発する。そんな副作用を案じます。「道徳」の教科化は子どもの人権や能力に対する社会の過少評価の現れだけでなく、明日の日本や世界に対する私たち自身の漠とした「不安の解消策」の1つではないかとも感じています。

幼い子には“良い”“悪い”の価値観を伝える事が教育であると理解されているようですが、道徳や倫理は(他者の中の)自己の生き方を自問自答するような経験を重ねながら感じ取り学び得るものだと思います。子どもどうしの関係の中に学びの場があり、大人は口出しする前に葛藤する時間をあたえて見守る事が大切だと考えます。今回は、その見守った例です。今年1月の朝の乳児の保育室でのことでした。

朝夕は、0歳児から2歳児まで合同で「コーナー保育」をしています。
0歳児クラスのミイ(仮名:1歳10か月女児)も、2歳児クラスのケイ(仮名:3歳1か月女児)も「おままごとコーナー」で互いに影響を受けているような、いないような、乳児ならではの微妙な関係性、空気感で過ごしていました。(朝からごっこ遊びが大賑わいでスゴイな。乳児も異年齢のコーナーで過ごすのはなかなかいいものだ)と0歳児のミイの担任は微笑ましいその光景を眺めていました。

突然「ぎゃー」「ギャ~」と叫び声が飛んできました。ミイとケイがポットの取り合いをしています。どちらが先に持っていたのかは定かではありませんでした。
ミイは「ぎゃーぎゃ~」と叫びながら手を放さず、ケイはケイで「だめ、これは私が使ってた!」と大声を出して主張し、1つのポットにくっついた2つの手は、拮抗状態を保ったまま、双方譲らず、叫び声だけが響き渡ります。
担任はただ黙って見守りました。ケイはミイの担任の視線を気にしたか、ごく自然に手の力を緩めてしまったのです(さすがお姉さん?)。ポットはケイの手から離れ、ミイはグイっとポットを引き寄せて我が物にし、表情は興奮気味でした。
ポットを譲ってしまった2歳児のケイは「うわ~ん」と激しく泣き始めました。
ケイはとっても悔しそうです。ミイを恨めしそうに睨みながら泣き続けます。睨まれた方のミイは首を横に振りながら後ずさりします。殺気みなぎる光景です。
ポットを手にし、思い通りになったはずなのにミイの表情は固いまま。で、目はじっとケイを見つめています。担任は殺気を取り除くかのように笑顔をこしらえて、ミイに「ケイちゃん、泣いてるね」と話しかけました。けれども年下のミイは年上のケイから目をそらさずにポットを手にしたまま立ち尽くしています…。どうなるのだろう…と担任は黙って様子を見守ることにしました。するとミイはゆっくり、ゆっくり、とケイに近づいていきました。(おや?どうする!)

0歳児のミイは(考え抜いた揚句)、重苦しい表情で「ハイ、どうぞ」とポットを年上のケイに手渡したのです。(やさしい!?)“自分が泣かしてしまった…。ポットを返した方がよさそうだ‥”と年下のミイがそう感じ取って譲ったように見えました。そしてすぐ担任の胸に飛び込んで〔ハイどうぞシタヨ〕と片言で報告します。けれどもその表情はたいそう落ち込んでみえました。そのあと、ミイの姿は担任の膝のうえに在りました。顔を担任の胸に押し付けていました。
10分後、2人に明るさが戻ってコーナーに居ました。ミイもケイもその後、何もなかったように、それぞれがそれぞれに朝の時間を愉快に過ごしていたのでした。

譲ることが尊いとは限りません。まして0歳児、2歳児はどうでしょう。双方とも強い葛藤の末の不本意な選択だったに違いありません。なぜ譲ったのでしょう。
担任はミイの母親的な存在です。ケイは「自分がお姉さんだから・・・」と感じたのでしょうか。ミイも担任が傍に来たので「譲らなきゃ……」と抑制の気持ちをはたらかせたのでしょうか。もしも担任が折り合いを付けてほしいと願い、言葉で「譲り合い」の規範を伝えたらどうなったでしょう。担任も葛藤しながら見守ったことで2人には“自分で深く考える経験≒葛藤”を味わえたのかもしれません。

このケース、担任の目の前で双方がつかみ合いに至ったとしても、その経験は有意義だと思われます。正解はなく複雑な心模様を描いてこそ道徳心の芽生えです。
「信頼できる大人の存在と葛藤し見守る態度」≒「規範の代替」であり、それが「強い葛藤」≒「道徳心」を双方にあたえた良い事例だった、と私は解釈します。
【資料提供:みやざき保育園(川崎市):池田麗佳】
※ 次回5月23(水)は、ななこども園(大阪府)です。