種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン2-42”

【ユナタン2-42】

~ 思いを伝え合うことが解決策 ~

2018年4月25日  片山喜章(理事長)

  なかはらこども園(神戸)の去年の3歳児クラスの出来事です。
昨年12月、3歳児のマッチとトシとヨシオの3名(いずれも仮名)がお医者さんごっこをしてよく遊んでいました。よく遊んでいる!ということは同時にトラブルも起こりうる!という事です。そのトラブル体験(ケガのリスクは回避)は保育者の「見守る介入」によって良い育ち=教育になりえます。今回は、その事例です。

予想通りトシとヨシオが注射器を使い始めると、マッチはお気に入りの注射器が欲しくてほしくて何の断りもなく奪い取ってしまったのです。もちろんトシもヨシオも黙ってはいません。マッチから取り返そうと言葉で応酬します。するとマッチは2人を交互に叩き始めました。その途端、トシは声をあげて泣き叫び、ヨシオはその場から逃げ出して先生のところへ駆けていき、マッチの乱暴を訴えたのです。

「どうしたかったの?」と先生は、3人それぞれに尋ねましたが、3人とも“欲しかった”と答えるだけで話はすすみません。ここで先生の介入の仕方が問われます。このケース、「解決の主体」は先生なのか、3人の当事者なのか、そこが保育のポイントです。例えば、先生がマッチに「叩くのはダメでしょ。お口で言ってね」「順番に使おうね」と諭すのが一般的ですが、当事者どうしのトラブルに先生が立ち入って裁くことが果たして教育と言えるでしょうか。みなさんは、どう考えますか。

先生は、特に「こうすべきでしょう」と断定的な提案をせずに「何か嫌なことがあったらお友達を叩かないで、センセイに話しにきてね」「ちゃんと聞くからね」とマッチに話し、トシには「嫌なことがあったら、泣かないでお話してね」ヨシオには「トシが嫌なことをされたら、マッチにお話ししてね」と伝えました。
つまり“トラブルで生じた気持ちは聞いてあげるけど、解決するのは自分たちだから話し合って、解決してね”というメッセージを送りました。事あるたびに同様のメッセージを送り続けました。“3歳児にはムリ”“先生が言って聞かせる事が教育”と考えるのが常識ですが違います! トラブルにならないように大人が言って諭すことよりもトラブル後、当事者の心に生じた気持ちを当事者間で話し合いながら、解決しようとする“意識”や“行為”を促すことが本物の教育だと思います。
それから、3か月を経た今年の3月のことでした。マッチ、トシ、ヨシオの3人はまたお医者さんごっこをして遊んでいました。そしてまたまた注射器をめぐってマッチとトシが取り合いをはじめたのです。ヨシオは仲裁に入りましたが、無理と判断したのか、また、先生に伝えにいきました。まさにデジャブです。

少し迷った先生は、子どもたちの話を逐一聞くことをやめて「3人で話し合うことはできる?」と尋ねました「できるっ」「できる~」と声が返ってきました。
そこで3人の傍で逐一話を聞くのか、それとも距離をおいて子どもだけで話し合うのを見守るのか思案しました。あれから3か月“子どもたちだけでどんな会話をするのか聞いてみたい。どうにもラチがあかないときは自分が関わってみよう”と腹をくくって「自分たちで話し合ってくれるかな」「後でどうなったか教えてちょうだい。先生聞くからね」と伝えました。先生は少し距離をおいて子どもたちの様子を観察します。子どもたちは“見られている”と感じているようでもありました。

3人だけで話をする姿が見られて、先生は嬉しくなりました。時折、話し合う声が漏れ聞こえてきます。「ツカイオワッタラ~…」「サキニ~…」。マッチとトシがデュエットでもしているかのように交互に話しています。その横でうなずくヨシオの姿は、まるで、2人に合わせて伴奏しているようで‥‥…。それから5分が経過しました。

マッチとトシがやってきました。さてさてどんなふうに解決したのでしょう。
マッチ:「先に、トシに貸してあげる。トシが使い終わったら貸してもらう」
トシ :「先にぼくが使うことになった。使い終わったらマッチに貸してあげる」
先生は「ホントに納得した?」と尋ねました。子どもの「答え」に突っ込みを入れることで思考力が一層刺激されるからです。2人とも笑顔で「ウン」と答えます。
その後、トラブルもなくヨシオを交えた3人で注射器を使って遊んでいました。お医者さんごっこだけでなく、大人に口出しされずに話をして合意をつくり出せた経験(結果は二の次)も3人の子どもにとって有意義(教育)だったと思います。
保育の場面だけでなく社会全体の物の決め方として大切にしたい事です。
それにしても、この注射器、中にどんな良薬が注入されていたのでしょう?!
【資料提供:なかはらこども園:牛島夢恵】
※ 今後、ユナタンは毎月、第2、第4水曜日に発行・配布します。
次回(5月9日)は、みやざき保育園(川崎市)から【事例】をいただきます。