種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン1-41”

【ユナタン1-41】
~ 新年度早々のエピソード2つ ~

2018年4月17日  片山喜章(理事長)

今年度も「子どもたちの姿」と「その解釈」を綴った【ユナタン】がスタートします。今年度は10施設ある法人のこども園、保育園(他に児童館を運営)が、1園ずつ輪番で話題提供し、そこに私なりの解釈を加えてお届けします。

 今回は、新年度早々私が直接、かかわった2つのエピソードです。

  『導きのスキル(真似っこ。ルールのアレンジ)』
4月2日、新年度初日、A園の4歳児クラスの保育を観察していました。新しい担任はお部屋でサークルタイムをしたあと、子どもたちを1階のランチルームに降ろしました。子どもたちと集団ゲームをするというのです。クラス全体でルールのあるゲームをするのは、絵画や製作等、個々が対象物に向き合って取り組む活動と異なり、ゲームのおもしろさとルールの共通理解が欠かせません。保育者の展開力が弱いと、ぐちゃぐちゃになってしまいます。実際、保育者の強い指示や言葉の力で子ども集団を何とか引っ張っていくこともあり得ます。さて、さて…。

だらだらと、1階のランチルームへ降りてきた子どもたちに担任は、いきなり、『だあるまさんが、こおろんだ』と声高に言い放ってひとりでシェーのポーズをして見せました(おそ松くんのイヤミのポーズ)。突然の姿に子どもたちも思わずシェーのポーズを真似てしまいました。表情は輝いています。その後も担任は『だあるまさんが転んだっ!』と言い放っては次々に様々なポーズを変えてくりかえします。
子どもたちも“次はどんなポーズ?!”“次は?”と担任のリズミカルでコミカルな動きを期待し、そして真似っこをします。ありきたりのネタですが、子どもの“真似したい”“おもしろい”の気持ちを引き出した担任の力だと私は捉えました。

次に担任は後方に用意した2枚のマットに子どもたちを移動させ、自分は反対側の扉の方へ行って子どもに背中を向けて鬼になります。『だあるまさんが~』で子どもたちは鬼に駆け寄って『転んだ!』で振り返ると子どもたちは止まります。
昔からある遊びです。しかし本来?の「だるまさんが転んだ」と違います。誰もアウトになりません。子どもたちは鬼の居る付近まで駆け寄ってそこに並べられたカラーコーンにタッチするとまたマットに戻ってスタートします。
ただ単に鬼の前にあるカラーコーンをタッチすればマットに戻って再出発する。ゴー&ストップの動きを自分のペースで何度もくりかえすだけなのに、4歳児クラス初日の子ども集団がほぼ全員、楽しめます。その年齢の興味を把握したルールにアレンジして展開する事、これは保育者のスキルの大事な面だと私は捉えます。

『コーナー・ゾーンでの保育者の仕事』
コーナー・ゾーンの遊び環境は、現代の保育において欠かせない基本のキです。
4月5日、B園のコーナー・ゾーン活動でのことです。朝10時、3歳児~5歳児の80名くらいの子どもが一斉にコーナーで遊び始めます。その場で作って販売するスイーツ屋さんがおもしろそうだったので私はイートイン用の椅子に腰かけてみました。間もなく黄色のエプロンと花柄の三角巾をまとったKちゃんがお皿にケーキセットを綺麗に盛り付けてやってきました。私は笑顔控えめでイチゲンさん気分で緊張感を漂わせて店員さんの方に目を合わせます。ここは居酒屋ではないのです。

「うちのケーキセットおいしいですよ、どうですか」とすまし顔の店員さんが声をかけてくれました。パティシエらしいです。私がイチゲンさんらしく浮かない表情で「じゃ、お願いします」と返すと、Kちゃんはスプーンとフォークを添えてケーキセットを置いていきました。私は(心得として)誰も見ていなくても、そのケーキをほんとうに美味しそうに口元にもっていき、口だけをもしゃもしゃさせながら、美味!という表情をつくって独りうなずいていました。私の意識はもはや観察者ではありません。するとまたKちゃんが近寄って来て「いかがでした」と尋ねました。私はマジに美味しかったと答えるとKちゃんはふたたび豪華なケーキセットを両手に乗せてきたのです。表情豊かに「これ、うちの新作なんですよっ」と甘めの声で勧めるではありませんか。おすすめされると断れない性分の私は「はっそうですか。では、いただきます」と押され気味の受け応えしかできませんでした。

私の存在に警戒心を抱いていた3歳児のNちゃんは、このやり取りを見ていたようです。まるで珍獣に餌をあげるように恐る恐る私に近づいて自分の作ったケーキをそっとおいてさっと逃げて距離を置きました。無言でケーキを食する私の姿を見て安心したのか、その表情から警戒心が抜けました。大人の真剣な演技の成果です。このお店の品々はベースが本物仕立てで品数が多くトッピングも豊富です。トングやラップも本物です。このような手の込んだ環境づくりは保育の重要な一面です。