種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタンDX-5”36

〔ユナタンDX-5〕 №36
「クリスマス」をテーマにした保育のエピソードから

平成29年12月26日  片山喜章(理事長)

毎年、この時期になると各園各様に「クリスマス」をテーマに保育の幅が広がります。テレビを見ても、街中に出ても、家庭においても「クリスマス‥‥」「クリスマス‥‥」です。
お正月もそうですが、世の中で話題になっている事(パンダの子どもシャンシャンなど)や家庭で盛り上がっている事(家族で温泉に行った…ハワイに行くんだ、等)と園の保育で取り上げたテーマが重なった時、子どもたちは親近感を抱いて格別の意欲が湧きあがるものです。

「クリスマス」をコアワードにして連想ゲームのように思いついたことを「ホワイトボード」に書き出して、イメージを蜘蛛の巣状に広げて、話し合います。「サンタさん」⇒「ソリ」⇒「トナカイ」⇒「鈴」。「プレゼント」⇒「煙突」⇒「靴下」。「ツリー」⇒「星」⇒「飾り物」。「もみの木」⇒「雪」や「電気」など…、キラキラと子どもたちの思考が点滅します。

3歳児クラスでの子どもの会話です。『サンタさんはどこから入ってくるのかな?』『エントツじゃない?』『でもおうちにエントツないよ』『じゃあ、サンタは来ないの?』『エントツなかったら家の窓から入ってくるって!』『鍵、開けといてあげた方がいいのかな・・・』『いや、鍵がかかっても、魔法の力でプレゼントをおうちの中に届けられるんじゃない?』
そこから、『プレゼントって、靴下の中に入れてくれるねんで』『えッ、靴下くさいやん!』『じゃあ良い匂いのきれいな靴下、用意しとこうよ』『でも、私の靴下小さいけどプレゼント入るかな?』『大きい靴下を用意しようかな』。ウキウキ気分に想像力がもくもく昇ります。

4歳児クラスでは「メリークリスマスのメリーって何?」「メリーさんの羊のこと?」「ちがう、ソリ引っ張るの、トナカイやで」「トナカイも羊の仲間?」「どうかな……」。
「クリスマスってどういう意味?」「キリストの誕生日」「キリストって?」「イエスさまのこと」「イエスって“はいそうです”ってこと…?」「ちがうよ」「ちがうって“ノー”って言うね…」この時、保育者はきちんと教えるべきか、どうか迷います。が、私なら子どもたちが話疲れるまでニコニコしています。なぜなら、ある子が真剣に尋ねてきたなら応えますが、とにかくワクワク気分の現れですから、そこに講釈を垂れると水を差す気がするからです。

5歳児クラスでは、話し込んでいるうちに論点が絞られて、最終的に「クラスのみんなで園のクリスマスツリーを作りたい」という事にまとまりました。そして「どのように作るのか」と話題は発展し、そこから先は、ウキウキ、ワクワクを超えた“気合い”に変わったのでした。
その園では異年齢グループの製作活動でも「クリスマス」がテーマでした。あるグループは作りたい物で分かれました。「ツリー飾り」「クリススマ会に着る物づくり」などです。
何となく「ツリー飾り」の場所に行った3歳児のジョン。いざ開始しても黙ったまま周囲を見ているだけでした。ほんとうは特に何かをしたいということではなかったのだと思います。
隣で5歳児のポールとジョージが「こんなんどう?」「星の形になったし」と互いの作品を見せ合っていました。そのうちに「やりたい」という気持ちに火が灯ったのか、ジョンも見様見真似で作り始めました。ポールが「イイの作ってるやん」と声をかけました。年下の子に真似られることは光栄で嬉しいのかも知れません。ジョンは特に反応しませんでしたが、ぎこちなさを抱えながら必死にハサミを使って星を作っていました。ハサミを扱うスキルも上がっていきます。その表情は満足気に見えました。ポールやジョージの姿を見て、ジョンの心に“自分もやりたい”という気持ちが湧き出たのだと思います。⇒ 学習≒教育場面です。

自分が“やりたい”気持ちになり、その“やりたい気持ちを叶える”ためにハサミを使い、結果“スキル”があがる。これが学習=教育の原点であるべきだと思います。当事者の“やりたい”“やってみたい”“できるようになりたい”、その気持ちが膨らまないままハサミを扱うスキルだけをアップさせようとしても、それは学習とは言い難いのです。私たちは、小中学校で習った知識も“知りたい欲求”に関わらず「知っておくように」と教えられてきました。
“知りたい”気持ちにさせる工夫や仕掛けを施す事が学習と教育の中心になると思います。

5歳児の園のツリーづくり。ホームセンターでモミノキを買って、ダンボールを車やお家の形に切って、色を付けるジョージに「それ、ナイスアイディア」とポールが声をかけ、既成の飾り物以外に、まつぼっくり、どんぐり、新聞紙をどんどん使って、まる3日かけて、クラスのツリーを仕上げました。では彼らは何を学習したのでしょう。クラスみんなで1つのツリーを作り上げた経験が良い学習でしょうか? それぞれがハサミを器用に駆使し、絵具を使い、筆を巧みに扱うスキルを発揮したことが学習でしょうか? どちらもイエスですが‥‥。

これからの学習活動には「社会とのつながり」の視点が必要です。個々のアイデアやスキルを持ち寄って自分たちのツリーを製作した。そして、そのツリーが園のツリーとして玄関に設置され、他のクラスの仲間や保護者の方々、お客さんたちにとっても、この園のツリーとして(社会的に)存在したことが学習成果です。農業生産者は社会(消費者)を意識して品種改良に挑み、新たな農業技術を学習します。アスリートもアーティストも自己表現がそれを享受する周囲(社会)との関係を意識して学習します。その子の「やりたい」からスタートするのが学習の基本で、それを促し支える事が教育である、と理解していただきたいです。