種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタンDX-3”34

〔ユナタンDX-3〕 №34
ニッポンの〔いま〕のなかで保育する、ということ ③

平成29年11月28日  片山喜章(理事長)

11月11日(土)、大阪府藤井寺市の法人施設「ななこども園」で《公開研究会》がありました。この園では『話し合いの保育』と『1歳児からのグループ活動・当番活動』をガチに園生活の中心に据えています。ここでプレゼンされた実践とエピソードを聞いて「3歳児の育ち」と「規範意識」そして、ニッポンの〔いま〕と「これから」の保育について深く考えさせられました。

この園では、1歳児から1テーブル3人1組のグループがあります。今回は、3歳児のグループの給食当番において、土日を挟んで6日間にまたがる話し合いの物語がありました。保育の中心に“話し合い”を据えるのは大事です。しかし、日々の決まった当番活動を3歳児どうしが話し合うってどういう事なのか、あまりイメージが持てないと思います。私自身、この園のグループ単位の当番活動を日頃から高く評価しながらも、何でもかんでも(幼い)子どもに尋ね、逐一子どもどうしで話し合いをさせて決めていく保育の進め方を“偏り過ぎかな”と感じることもありました。

3歳児クラスは5人1組のグループです。毎日、同じテーブルに座ります。給食の配膳や盛り付けをグループ内のメンバーが輪番に行います。当番表は、日めくり式の写真付きカードです。
5歳児なら、毎日くりかえされ、滅多にトラブルは起きません。けれども、3歳児になってから開始された日々の当番活動において「毎日したい」など、色々わがままを言う子も出てきます。
ふつう、オトウバンは?お当番!なので、特に話し合って決めることもなく、1人の子が続けてするのは認められるはずがありません。ルールを知る=社会性を会得するチャンスと考えます。

しかし、ここでは1人の子が「続けてやりたい!」と主張すれば、先生は「みんなどうする?」とグループのメンバーに尋ねます。もしも、1人の子のわがままに「いいよ」と仲間が答えれば、その子はいつでも当番が出来て、先生は異論を唱えず是認するという日常です。私たちは反射的に「そッら~あかんやろ⤴」と考えます。果たして、どうだったのでしょう。ここではSグループの朝の話し合いの様子が、子どもの言葉1つ1つを取り出しながら、つぶさに報告されました。

10月27日(金)、各グループの前日の当番が前に出て1人ずつ「今日の○○グループのお当番は××です」とカードをめくって知らせます。正広たち5人のグループがカードをめくると“慎吾”の写真が出てきました。しかしその日、慎吾は欠席でした。担任は「どうしよう?」とSグループのメンバーに尋ねました。すると正広が「ぼくがする!」と主張します。即座に拓哉は「慎吾のカードをめくったら慎吾が可哀そう」と反論します。他の仲間もそれに続きます。正広は仲間におされた気味で「ぼく我慢する。当番表をめくりたかっただけや」と自分の主張を取り下げ、その日は“慎吾の代わりに全員でお当番しよう”と次々に言い出して、各自、自分で給仕することになりました。“!と?”の空気が混ざる感じです。しかし翌31日もまた慎吾はお休みしたのです……。

10月30日(月)。「今日も慎吾の代わりにみんなでしようか」という拓哉の提案に剛と吾郎は追認し、正広は「嫌だ!自分がする」と言い張ります。正広はカードをめくって「慎吾が登園したらまた慎吾に戻せばよい(次は正広)」としきりに訴えます。慎吾が登園したとき、ふたたび慎吾に戻す約束で全員が納得し、正広はカードをめくって自分の写真が出て来たので、その日、当番をしたのでした。ここでのやりとりは、不思議に道理が通っていました。躊躇なく主張し合うメンバーの姿と相手を説得しようとする言葉に感動しました。

そして、10月31日(火)、久々に慎吾が登園しました。朝の集いで前に出て来た正広は、当番カードを逆に戻して「○○グループの今日のお当番は慎吾です」と全体に知らせました(Good!)。慎吾は、この間の出来事がよくわからず「えっ今日、僕で、いいの?」と尋ね、メンバーは一斉に声をそろえてOKしました。
大人が決めつけず、このような任された話し合いを対等に重ねるうちに子どもの思考は深まるようで、子どもは、子どもの影響をより強く大きく受けて発達していくのだと実感しました。

翌11月1日(水)、朝の集まりでは、前日、お当番をした慎吾が当番カードをめくります。すると正広の顔写真が現れて「今日の○○グループのお当番は正広です」と慎吾は言いました。すかさず拓哉が「違う!」と声を荒げ、正広は「なんであかんの?」と詰め寄ります。拓哉は『だってこの前は、正広、一回、お当番したやろ? それで慎吾が昨日して、また今日、正広がするのは2回になるから嫌やー(原文のまま)』と応戦し、しばらく“必死のパッチ”の主張合戦が続きます。
【気遣いのない自己主張の応酬は、互いの思考力を鍛え、精神を研き、理解を促し、自己主張の中味を成長させ、譲歩の気持ちを呼び起こし、結局、仲間意識を育む】と確信しました。〔いま〕のニッポンに必要なのは、気遣いのない自己主張の応酬です。私たちが見習いたい姿でした。

拓哉は「正広の次は拓哉、今日は自分が当番」だと主張します。言い合うたびに正広は徐々に理解を深めていきました。剛も吾郎も理解が進みます。その日、慎吾がめくったカードに正広が出たけど、ほんとうは正広を飛ばして拓哉になるはず。そこで正広に「もう一回、カードめくってはどう?」と剛も吾郎もやさしい物言いで話しかけました。この寄り添うムードが正広の理解を促し、とうとう正広は(照れ隠しなのか)「みんな目をつむって」と言い出し、みんなが目を瞑っている間にさっとカードをめくりました。そこには、拓哉の姿が写真になって「拓哉がお当番ですよ」というメッセージが伝わってSグループみんながほんとうの納得に至ったようです。

《研究会》の中で出た1歳児クラスの話です。食前にエプロンをする際、1人の子が裏向けに着けかけた時、近くの子が“違う”と気づいて助けようとしました。微笑ましい姿です。しかし、その子は“ジブンでする!”と主張して助けを拒否します。にもかかわらずその子は手助けしようとします。(双方の気持ちはわかります)。その時、全く別のところから第三の子がやって来て両者の間に分け入って「手助け無用。自分でしたがってるんだからやめなさい」と言わんばかりに手助けする子をメヂカラと両手で遠ざけたのです。これ! 1歳児の姿です。ここからの洞察、重要です!
〔いま〕のニッポン、総理大臣も有識者もマスコミも保育界でさえも、上記のような素朴な事実にアプローチが及びません。どうしてでしょう。 次回(12月12日)、自己主張いたします。