種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”27

ユナタン:27≫ in 種の会

~ 師走を迎えて思うこと ~

                     平成28年12月6日:片山喜章(理事長)

2016年(平成28年)は、激動の年、大転換期の序章として世界史に刻まれるのではないかと推測しています。皆さんそれぞれが「ゆく年」を思い返し、「来る年」に思いを描くこの「師走」に、多くの保育者は「はっぴょうかい」について、あれこれと思いをめぐらせています。もう既に、子どもたちと話し合いをはじめている園もあります。

 

(ご存知のように?)一昨年から「保育環境評価スケール」という冊子を用いて、各園、年4回、保育環境の評価を受けています。各園から毎回2名、評価者として出向きますから関東3園で12回、関西4園で16回開催されます。相互に訪問して数値化して評価し合いました。今年の4月からは、訪問回数は同じですが「コーナー・ゾーン」に特化した法人独自の指標を設けて実施してきました。

 

自園の保育環境や方法を改善するには「他者から評価してもらう事」は効果的です。しかしそれ以上に他園を訪問し、その園のために!自園の事は“棚”に上げて厳しく指摘すると一層、自園に弾みがつく事もわかってきました。『他人の振り見て我振り直す』を越えて「他人の振りを見たら適切に指摘する!」と「我振りの直りも速くなる」のです。

 

この“指摘し合う文化”が媒体になって「コーナーやゾーン」について、各園の知見やウンチクはぐんと深まって、議論のレベルも高まります。そして最近、根本的な子ども観や保育の仕方が底上げされた気がします。少し驕って言うなら、この国がめざす教育・保育の形を先取りしたものになってきたと言ってよいと思います。もちろん人によって違いはあり、各園各様に課題はありますが、年齢別のクラス活動においても、自然に、子どもの言い分や意見を取り入れる《保育風土》が各園に醸成されつつあると評しています。

 

従来型の教育・保育を端的にいえば、先生が課題やテーマをあたえて子どもたちは一斉にそれに取り組むというもので、広く一般的に周知されている日本式の教育の姿です。先生が期待する答えを探したり、みんなが同じ手順で同じような物をつくる事で安心したり、一見“まとまり感”があるようで、先生も子どもたちも心地よいものでした。しかし、時代の変化と共に心地よい状態がどんどん崩れだしました。先生が教えた事を学ぶ教育が徐々に機能しなくなり始めました。「小1プロブレム」「学級崩壊」と称されるように、教師集団も苦悩し、こだわりのある子ほど適応しづらくなってきたのです。

 

この「状況」をふまえて国もあれこれ善後策を打ち出します。かつての「ゆとり教育」(もう少し試行すべきだった)や現在、佳境に入っている「アクティブ・ラーニング」はその現れです。しかし私自身、正直、期待できないのです。それには理由があります。1つは、従来型の教育や保育に変わる「新しい教育観」は圧倒的多くの人たちに理解されづらい現状があります。学校だけでなく社会全体として“子どもの人権”に対する意識が成熟しているとはいえない現状もまた大きな要因だと思います。逆に子どもの安全・安心のための大人の心配りが時には子どもを庇護し過ぎ、自立を阻む場合もよくあります。

 

もう1つは、私たちの園の「5歳児の日々の学びの姿」と「小学1年生の授業風景」の差異があまりにも大き過ぎることがあげられます。5歳児になると小学校に進級するために!机に向かって!先生の言うことをじっと、ずっと聞ける姿が求められます。なので、現在、園によっては、5歳児だけ「ワークの時間」を設けるなど、各園でそれなりの対応はしています。しかし、本来、そこが逆さにならないと「教育改革」は果たせない!と思います。つまり、小学校の先生方が頻繁に園を訪れて5歳児の保育や姿を実際に見て、私たちと何度もなんども語り合って、学校での授業(特に1,2年生)の形態やすすめ方に反映させていただく、そんな日常を作り出せるように私たちもがんばります。

 

「知識」とは、かつて「覚える事」でしたが、今ではネット等で「検索する態度」を身に着ける事であると言われています。“みんな違って良い”のにクラス全体を上から1つにまとめようとする考え方が保幼小を問わず多数派ですから改革には困難が伴います。子どもたちに問題やテーマを投げかけ、子どもどうしが存分に話し合うと互いの違いを感じ取ったり、弱点を補い合ったり、個々の子の眠っている“寛容さ”が能力として引き出されると考えます。議論を存分に交わす習慣を会得すると、辿り着いた答えに異論であっても納得が生れまるものです。正解を知ること以上に、1人で、あるいは何人かで正解を探し、仲間と納得の度合いを深め合う事が「これからの教育」であると確信します。

 

「コーナー・ゾーン」による保育は、自分で遊びを選びます。誰しも選択を迫られる事は人生の節目、節目に訪れます。自分で選んだ遊び(学び)に没頭する。この経験をくりかえし積み重ねることが“判断力”や“向上心”の土台づくりになると考えられます。このような保育を日常的に取り入れると年齢別のクラスの保育も変化します。例えば、クッキングや誕生会の「プロジェクト型保育」、運動会の「練習プロセス」などにおいて、子ども主体の教育・保育がクラスの保育にも浸透し、定着しつつあります。

ということで、年明けから本格化する「はっぴょうかい」の取り組みが、いかに子ども主体で、子どもたちが「納得」しながら展開されるのか、大いに期待されるところです。