種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”28(なな)

 ≪ユナタンデラックス:28≫ at ななこども園

1歳児(ももぐみ)からの贈り物

平成28年12月26日  理事長 片山喜章

今年、最後のユナタンは、1歳児もも組の「保育の実際」を記録したものを掲載しました

もも組担任 中野・中川・片野・山本(奈)

~ これまでの様子 ~

子ども達の関わり合いや繋がりが持てるように高月齢児、低月齢児、それぞれの性格や0歳時からの引き継ぎ等を考慮した上で、4月からグループ(3人)を組んで生活をしている(ぴんく部屋:1グループ3人×3グループ/しろ部屋:1グループ3人×3グループ)ねらいとしては、まずグループ内でのやり取りやモメ事等の経験を繰り返し、同じ年齢・月齢の子との関わりを持つこと。そこから少しずつグループ以外のお友達に興味・関心を持ち、最終的には1つのクラスとして2歳児クラスへと繋げていきたいと考えました。

グループでのやり取りを丁寧に関わり、見守ろうと思うと、子ども達が一番顔を合わすことが多いのが、おやつと給食の時間です。当初は、自分のマークのある席に着くと、同じグループの子が座っていなくても気にせず…ということが多かった。段々と自分のグループや同じグループのお友達のことを分かってきた頃、本来の自分を出せるようにもなってきていた。朝のおやつ前は「ママがいい!」、給食前は「トイレいくのイヤや!」、3時のおやつ前は「ねむたいねん!」と自己主張する子ども達。時には、甘えたり、イヤダ!という気持ちを受け止め、もちろん1対1で関わることも必要だと考えています。

・・・しかし、そんな時こそ、チャンス到来!揃っていないグループのテーブルに保育者がつき、その都度「ここ誰のお椅子?」「○○ちゃんどこにいてる?」「○○ちゃん来るかなぁ?」と、同じグループの友達を知らせ、気付けるように働きかけてきた。子ども達の会話や行動がどのような方向にいくのか、予想がつかず、頭を悩ませることも多いが、そのやり取りにじっくり時間をかけることを大事にしてきました。最近では、グループの友達が揃うと、子どもたちの方から「そ~ろった~!!」と知らせてくれるようにもなってきた。「そろったね~、“いただきます”しようか!」と声をかけると嬉しそうに笑い、「おいしいね~!」と言い合いっこするグループも。そんな姿から、次のステップとして、『お当番』(コップ配り)を始めていこうと思っています。“渡す”“もらう” 、「どうぞ」「ありがとう」のやり取りから、またひとつ友だちとの繋がりを持てるように、と期待を込めて・・・。『お当番』を始めるにあたって、これからどう進めていこうか?と担任で意見を出し合った。話し合いの末、ひとつ前の段階として『お手伝い』から始めてみることに。まずはおやつ&給食の際、コップをテーブルの中央に置き、子ども達の反応と行動を見てみようか?ということになった。すると、自分の分だけ取る子もいれば、横に座る子に「はい」と渡してあげる姿も見られた。また、担任から直接「○○ちゃん、コップ渡してくれる?」とお願いしてみたり、3人のうち1人の子の傍にそっとコップを置いてみたりと、色々なやり方で『お手伝い』をしたくなるようなの雰囲気づくりをつくっていきました。

 

~お手伝いスタート直後①~

(トマトグループ/A・B・Cは言葉がよ~く分かる3人で、おもしろい会話のやり取りがいつも聞こえてくる) コップをテーブルの中央に置く『お手伝い』に慣れてきたのか、席に座るとすぐ「○○が配る!」と主張するようになった。(やりたい気持ちが出てきたし、今までとは違う聞き方したらどうなるかな?…と思いながら)

保「今日は誰がお友達にコップ“どうぞ”する?」と聞いてみた。3人一斉に「Aが!」「Bちゃん!」「Cがする!」と口にする。やっぱり3人ともやりたいようだ。 保「じゃあ・・・“やってもいい?”って聞いてみる?」と一人ひとりの顔を見て言ってみると、3人それぞれ「やっていい?」とそれぞれの顔を覗くように相手の表情を確認する。が、3人とも「あか~ん」との首を振る。だれも一歩も譲る様子はない。「やってもいい?」「あかん」と、そのやり取りがくりかえされる。(うーん、まだ“譲る”のはむずかしいかなぁ。このままじゃ、給食食べられない…)思い切って、保「Aちゃんはだれに“ど~ぞ”したいの?」と聞いてみた。

A「Bちゃん」 保「Bちゃんはだれに“ど~ぞ”したい?」 B「Cちゃん」 保「Cちゃんは?」

C「Aちゃん」   (ってことは…? それぞれ好きな子に渡せる!)

保「じゃあ~そうする?」と一人ずつに1つコップを渡し、それぞれ“渡し”、“もらう”ことが出来た。コップが手に渡ると「もらった~」と喜び、笑顔になっていた。『お当番』とはまたちがうかも?とは思ったものの、まずは“やりたい!”気持ちを持って欲しかったので、これもアリか…と思いました。

 

~数日後②~

(トマトグループは特にやる気満々。他のグループではまだそこまでの意欲は見られない)

少しずつコップ配りが分かってきた頃、いつものように、保「今日は、だれがコップ配る?」と聞いた。

A「Aがくばる!」と声を荒げて主張する。 B「Bちゃんがしたい~」と小さな声でつぶやく。

C「Cがくばる~!」とテーブルに身を乗り出して言う。(今日もまた3人ともかぁ~…どうしようかな)

保「みんな配りたいの?どうしよう~」 A・Bは自分が配る!と一点張り。しかし珍しく、いつも同じく主張するCがその2人の様子をただ静かに見ていた。

保「Cちゃんは?」 C「いいよぉ~」すぐに“いいよ”と言ったので、本当に?と思いもう一度聞く。

保「いいの?AちゃんとBちゃん、コップど~ぞしてもいいの?」 C「うん!」と頷く。

(珍しい…じゃあ、AちゃんかBちゃんか…どっちか譲るかなぁ)

保「Cちゃんは、コップ配って“いいよ~”だって。よかったね~Aちゃん、Bちゃん、どうする?どっちがする?」と聞いたが、2人とも引くことなく、A「Aがする!」いつにも増して怒ったような口調で、声を張り上げる。B「Bちゃんするの!」と言う。何度訊いても同じ。2人とも頑なで、迷った末、聞き方を変えて聞いてみた。保「Aちゃんはだれに渡したいの?」 A「Bちゃん」 保「Bちゃんは、だれに渡したいの?」 B「Cちゃん」と答える。

いつものBなら、Aを指名することが多いが(普段はトマトグループでもBとAのペアでよく遊んでいる)このやり取りがあったせいか? BはCに渡したいと言った。 朝にも2人の間でちょっとしたモメ事がありました。(あれれ、Aちゃんにはだれが渡してくれるかな…)

保「じゃあ~、BちゃんはCちゃんに渡して、AちゃんはBちゃんに渡す?・・・Aちゃんには?」と聞いてみたが、3人とも「・・・。」“???”といった表情。(分かりにくいか・・・渡してみたら分かるかな?)

保「じゃあ、Aちゃん、Bちゃんに渡す?」とコップを渡す

Aは、Bに「はい」と渡した。

保「はい、じゃあBちゃんはCちゃんに?」とコップを渡すと、Bは言った通りCに渡す。そこで気付いたのか、困った顔のA・・・保「Aちゃんないね・・・どうしよう?・・だれがどうぞする?」

少し間が空いて C「Cするわ!」と初めは譲っていたCが手を挙げた。コップを渡され、Aの困った表情は和らぎ、給食を始めることができました。

 

~数日後③~

朝のおやつでのこと。Bは母と離れるのが嫌だったようで機嫌が悪く、保育者と1対1の関わりを求めていた。おやつもいらないと言うので、トマトグループはAとCの2人で食べることに。

保「今日は誰がコップ配る?」 A「A!」 C「C!」 保「AちゃんもCちゃんもしたいの?」 今日も長引くかな~と思いながら、トマトグループさんなら見通しを持てるかな?と思い、給食のときにもコップ配りができることを提示してみる。保「給食のときもコップ配れるよ。Aちゃんは今がいいの?」

A「いまがいい・・・」と少しいじけたように呟く。 保「Cちゃんは?今配る?給食のとき配る?」

C「Aちゃんいいよ~C、きゅうしょくのときくばるわ!な!」本当に良いのかな?と思い、もう一度2人に確認しました。保「Cちゃんはいつ配るの?」 C「きゅうしょく!」 保「今は誰が配るの?」 A「A!!Cちゃんは、きゅうしょくのとき くばるねん!」  2人とも晴ればれとした表情で、お互い納得したようだったので、朝のおやつのコップ配りはAがすることになりました。

そして、給食の時間です。 A「Aがコップくばる!Aがコップくばる!」と主張し始めるA。

(あれれ・・・朝のおやつでの約束は忘れちゃったのかな?)

トマトグループの3人が揃い、「そ~ろった~!!」と知らせてくれたので、保育者がトマトグループに行き、誰がコップを配るか聞いてみた。保「今日は誰がコップ配るの?」 A「A!!」 C「Cしたい!」 Bは黙って聞いている。(朝のおやつ時にいなかったBの存在が気になるけど約束したし・・・)保「朝のおやつは誰が配ったんやった?」 A「A!」 保「Aちゃんやね。でも、Cちゃんもやりたかったから、給食のときは誰が配るって言ってたんやった?」 A「Cちゃん!」

いじけたような表情をするかと思いきや、意外にもAの表情は明るい。

保「ほんまやね、Cちゃんがするって言ってたね」 (Bは何も言わないけど・・・どうかな?)

保「Bちゃんにも聞いてみる?」 C「うん。Bちゃん、コップくばってもいい?」

保「朝のおやつのとき、給食はCちゃんがするってお話しててんけど、Cちゃんが配ってもいい?」と朝のおやつ時の経緯を説明する。

B「うん」と、いまいち上の空なのか、はたまた朝のおやつ時は自分が参加していなかった(でも、そのやりとりは見ていた)ことで、今は自分がやりたいと言ってはいけない感じだと空気を読んだのか、あまりにもあっさりとOKしたBでした。給食は朝のおやつ時の約束通り、Cが配ることになりました。

 

・・・数日後・・・④

その日はBが休みで、トマトグループはAとCの2人だった。朝のおやつ時、今日はどんなおやつだろう?とおやつを覗きにきたAとC。すると A「なぁなぁ、Cちゃんコップくばっていいよ!A、きゅうしょくのときくばるから!」そう言ってとても楽しそうに2人で席についた。“また次がある”ということが分かり見通しを持ってやりとりすることが1歳児で出来るんだな~と保育者も感心してしまった。

 

・・・そして次の日⑤・・・

午後のおやつ。担任の一人がトマトグループでコップ配りはだれがするのか?の話をし終えたばかりの時。A「Cちゃんくばっていいよ~」(あら、またAちゃん譲ったんだぁ~1歳で自分から“譲る”って・・・Aちゃんすごいなぁ)と思った時、AはCの目を見て、A 「うれしい~?Cちゃん、うれしい~?」と聞く。(へぇ~、Cちゃんの気持ちそこで聞くんだ~)。Cは、どういう意味で聞かれているのか“???”と、あまり分かっていないような反応だったが、ただ小さく頷き、コップを取りに向かった。C「はい」とコップを渡すCに対し、Aは自然と A「ありがと」と言いました。

 

・・・『お手伝い』(お当番)を通して・・・

『お手伝い』を進めると同時に、子ども達の言葉のやり取り、気持ちの変化を追ってきた。初めは、『お当番』を通して、 “やりたい!”気持ちを引き出したり、友達と気持ちをぶつけ合いながら、グループの全員が当番を経験して欲しいという思いだった。“やりたい”気持ちがみんなに出てきて、興味を持ち始めた所で『お当番表』を作ろうかと、話し合っていました。(めくって、順番を知らせ、目で理解出来るもの)

そして、担任間では日々、その日の『お手伝い』の振り返りと、それぞれのグループの状況を伝え合うようにしてきた。もちろん、『お手伝い』のペースや意欲の差はグループそれぞれにあり、全グループがトマトグループのように常にヤル気に満ち溢れているわけではない。ただ、毎度のごとく担任はトマトグループに手こずりつつも、子ども達の気持ちに寄り添い、話をしてきた。その中で、気付いたことがある。いつもは“自分!自分!”と全面に自我を出すAのような子の中に、“自分が譲ることで友達が喜ぶ”といった思いやりの気持ちがいつの間にか芽生えていた、ということ。そして“友達が喜ぶ姿は、またさらに本人にとっての喜び”へとなっているということ。でも、もしかしたら『お当番表』がないからこそ自然と芽生えた相手を思いやる気持ちなのかもしれない。一方で実は、この年齢の子でも、相手を喜ばせたい気持ちや思いやる気持ちをしっかり持っているのでは・・・?とも感じた。

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という子どもたちの物語とそこに向き合う保育者集団の姿です。これ、1歳児です。

この頃から物事には相手があって、互いに異なる思いをもっていることを確かめる体験していく、このような保育を通して、問題解決は話し合う事であることを学び、話し合うための表現力を高める必要性を個々の子どもが自分自身感じ取る、これが、ななこども園の中心に据えられた保育の目標です。