種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”28(もみの木台)

ユナタン:28≫ at もみの木台保育園

任務遂行で自己抑制!?

平成28年12月22日   理事長 片山喜章

2歳児クラスは、満三歳を迎える時期ですから自我の芽生えが強くなる頃です。園生活においても子どもどうしのトラブルが多くなります。自我を出し合って子どもどうしがぶつかり合う姿は自然な事ですが、同時に自我を抑制することも保育(発達)として大切なテーマになります。いわゆる我慢する態度のことです。我慢する力(抑制機能)を育むには、保育園では、興味・関心をそそるような遊び環境を整えて自分の好きな遊びを選んで没頭したり、簡単なルールのある活動(ふれあい遊びなど)を通して、仲間と折り合いをつける経験を重ねることだと解しています。

2歳児そら組の子どもたちも、友達とよく遊んでいる時ほど、思い通りにならない時には、手が出たり、つかみ合いになったり、その度、保育者が、お互いの気持ちを確かめ合うために中に入って話をしています。やって良い事、悪い事を伝えるのではなくて、(そんなことは百も承知しています)、互いの気持ちを聞いてあげることが自己抑制力を高めるポイントです。Aくんも、普段、自分の思いが通らない時には、友達とぶつかってしまうことが多い子です。

その日は土曜日でした。土曜日は、0歳児から5歳児まで20人くらいがいっしょに過ごす特別な日です。Aくんが園庭遊びをしている時、4歳児ほし組と3歳児つき組の4人くらいの男の子がヒーローごっこをしていました。各々が自分の好きなキャラクターになって変身ポーズをしたり、魔法の言葉を唱えたり、仮想の敵と戦う真似をして走り回っていました。仮面ライダー、ゴレンジャー、ウルトラマン、月光仮面など、ヒーローごっこの愉しさは昔も今も変わりはありません。ヒーローに成り切ることで、自分の有能性を自分で表現したり、正義感を発揮したり、一見、乱暴そうに見えるこの遊びには、子どもが健全に育つうえで、大切な要素が含まれていると理解できます。

この日、普段、いっしょに遊ぶメンバーではなかったので、自分のキャラクターを相手に説明したり、場面の設定をみんなで相談しながら遊びを続けていました。Aくんは、その様子を近くでじっと見ていました。あまり楽しそうなので思わず、彼らの後ろについて走り出しました。ヒーローたちも特にAくんのことを嫌がることもなく、仲間に入ることを認めていました。けれども、所詮、いっしょに遊ぶ楽しさのレベルが異なります。Aくんが嬉しそうな表情でヒーローになりきってみせても“志向”が違うために、ひとり浮いた感じで、物語もチグハグになっていきました。

それでもAくんは、ひとりでポーズをとって愉快にくるくる走りまわって参加しているように見えました。けれども、お兄ちゃんたちにとっては、だんだん疎ましい存在になっていったのです…。

すると、その時、4歳児ほし組のBくんがAくんのところに駆け寄って、そして言いました。

「ちょっといい?」とふつうに話しかけた後、急に「いいか、おまえは、ここをしっかり守っているんだよ!」と隊長口調で話しだし、近くにあったフープの中にシャベルを3本入れて、「これを守るんだ!」とAくんに任務を伝えました。任務を託されたAくんは、力強くうなずきました。そしてAくん以外の子どもたちは、颯爽とその場を立ち去っていったのです。

その後、3分くらい、周りに誰もいない状態が続きました。それでもAくんは、その場所を離れないで真剣な目つきでシャベルを守り続ける任務を果たし続けました。このとき、ヒーローたちの戦いの場所は、別のところに移動していたのです。きっと、Aくんの心の中では、(憧れの)お兄ちゃんたちに託されている、という使命感がはたらいていたのだと思います。動き回りたい2歳児本来の欲求をAくん自身が主体的に抑えて、その場を動かず我慢しているように見えます。この状態をAくんに脳科学的な意味での抑制機能(教育効果)がはたらいていると、私は捉えるのです。

それからしばらくして、Aくんは自分なりに“任務”を果たし終えたと考えたのでしょう、ごく自然に砂場の方に行って、違う遊びをしはじめたのでした。普段のAくんは、同じクラスの子と“戦いごっこモドキ”の遊びをするとき、必ず、戦う主役になって、時には乱暴に振る舞うこともありました。しかし、この日はBくんに言われたこと(指令)を理解し、忠実に役になりきることを楽しんでいるように感じました。まさに、異年齢保育が織りなす姿で、年上の子たちとの遊びにうまくはまった満足感がAくんの表情から伺い知ることができました。

一方、Bくんは、普段、自分の主張を強い言葉で表現する子です。相手に疎まれたり、反発されてしまうことがよくあります。そこにいた保育者の目には、当初、Aくんの動きがジャマだなと感じながら許容したものの、ほんとうに遊びの邪魔になってきたので、彼なり考えてAくんに言葉をかけたように映りました。しかし、クラスの友達に接する時のように、ストレートに「ジャマ!」と言うのをためらったように思います。そこで年下のAくんを傷つけないように考えた末、この“任務”を授けたのだと思われます。Bくんもまた彼なりに抑制機能をはたらかせたのだと考えられます。

日常的な異年齢での生活は、3歳児~5歳児です。しかし土曜日の少人数の中では0歳児から5歳児までの異年齢保育になります。そのような状況(0歳~5歳までの少人数の異年齢保育)がもたらした成果であると言えますが、普段、4歳児ほし組の生活で友達とぶつかって、嫌な思いをしたり、辛酸をなめたりした経験がもたらした結果であるとも考えることができます。その現場に居た2歳児そら組の担任は言います。「2歳児同士だったら、もめてしまうような遊びが子ども同士でうまく話を進めていったところがとても印象に残った」と。【資料提供:野志美由紀】