種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”17

ユナタン:17≫ in 種の会

~ 「コーナー・ゾーン」の保育と「製作・制作活動」 ~

平成28年6月10日  片山喜章(理事長)

保護者の皆さまは、よくご存じ?だと思いますが、幼児クラスにおいて「コーナー・ゾーン」による保育が実践されています。その時間は、遊戯室、あるいはクラスを仕切るパーテーションを開けて広い空間を設けて。異年齢で活動します。先生たちは、あれこれ必死に考えて、多彩な遊び空間を設定します。子どもたちは、好きな遊び場所を選び、遊び相手も子ども任せになる保育です。

といっても、四六時中、「コーナー・ゾーン」で遊ぶわけではありません。

毎日、一定の時間だけ、「コーナー・ゾーン」で保育する時間を設けたり、週に1回程度、基本的に曜日を決めて給食までの時間、ず~と「コーナー・ゾーン」で活動したり、その両方だったり、そこは各園の判断です。各園の職員集団の創意とコンセンサスが期待される保育でもあります。

そして、法人内で、この「コーナー・ゾーン」による保育を、関西、関東、それぞれの地域で、お互いに観察し、評価し合い《支え合う仕組み》を作って、この保育の底上げをめざしています。

『…コーナー・ゾーンの保育って、ただの自由遊びじゃン!?…』

時々、こんな“本音”をぶつけてくださる保護者の方がいます。さらに、“子どもたちはとても楽しそうだけど、でも、でもねっ、これって、ほんとうに幼児教育なのかしら?”と素朴な疑問を抱かれている方が、おられる事も承知しています。確かに個々の子どもは、何を学びとっているのか、明言しづらい場面も見られます。もしも、わが子が「大好きだから!」と満面の笑顔で、特定の友達と、ずう~と“ぬり絵”ばかりしていたなら、親御さんは苦笑し“不安”な気持ちに縁取られてしまうように思います。保育者の側も、ふと「これで、いいのかな?」と疑問を抱く場面がなくはなく、ある意味、“意味のある、本質的な深い教育のテーマ”であると言い得ると思います。

けれども、「四六時中、「コーナー・ゾーン」で遊ぶわけではありません」と上述しています。

ですから、これ以外の保育(教育)、つまり「クラス別の課題活動」や「テーマを共有するクラス活動」も大切であると、認識しています。私たちは、コーナーに設定する素材や教材の選定とレイアウトの仕方に精力を注いでいます(めッちゃ、創意やセンスが問われます)。一方「子ども理解」と「教材研究」をセットで考えてクラス活動の充実にも挑んでいます。この“2つの指導性”は、双方を発揮するなかで、混ざり合い相乗効果が期待でき、時代に即した“あたらしい指導力”として保育者(集団)に宿っていくと期待しています。(そのための《支え合いの仕組み》です)

様々な素材や廃材(廃材利用は日本の伝統)を制作素材として、子どもたちを観察しながら創意を搾り出す“保育者の姿”によって“遊びが発展した姿”をこれまで何度も見ています。

子どもどうしが“ごっこ的”に活動する空間をゾーン、そこに導く事をゾーニングと捉えます。子どもの主体性を尊重し、しかし、子ども任せにしないで、保育者自身がアンテナを研ぎ澄まし、子どもの思いや願いをキャッチし、それに“響鳴”した「提案」もしていきたいと考えます。

どの園も「制作コーナー」の人気は高いです。保育者から決まった指示を受けない自由制作なので、おのずと意欲があふれます。けれども、素材や廃材の色や形や感触に触発されて、「ただモノを造って、持って帰るだけ」という姿も、導入当初、よく見られました。

「造ったものを何かに“見立て”て、ごっこ遊びを展開する」「ごっこ遊びを一層、深めるために“見立て”に必要なものを制作する」、これは、理想の展開例です。けれども、それが園文化、子どもの“遊び文化”として定着するまでには、それなりの経験と時間を要します。

「コーナー」で自由に遊んでいる日常に「保育者の願いや創意」が絡みついて、徐々に「ゾーン」に発展し盛り上がる。個々の活動がジワリと繋がって集団遊びを自然に形成していく。それが園文化として醸成する。このプロセスが、幼児教育の実相であると言い切ってもよいと思います。

それを支えるのが、「クラス別の保育」です。2歳児の時、あの手この手で「ハサミ」の使い方に慣れ親しみ、一定のスキルを獲得していなければ、「制作コーナー」で「ハサミ」を使いたいという意欲は沸かず、実際、スキルも発揮できないわけです。様々な“ごっこ遊び”もクラス活動の中で経験しておくと「ゾーン」において、子どもどうしの力で、大発展する可能性を感じます。

5月、ある園で数名の4歳児が「制作コーナー」で「こいのぼり」をつくりはじめ、みるみるうちに感染し、「吹き流し」から「まごい」「ひごい」まで1つになったユニークな「こいのぼり」をつくる子どもたちが増えました。けれども、すべての4歳児ではありませんでした。従来型の造形活動といえば、「5月=こいのぼり製作」と一斉型の定番製作でした。しかも、クラス全員がだいたい“同じような出来栄え”になることをgoodとする価値観が一般的でした。

わが子も保育園時代、クラスで同じモノを作っていました。出来栄えを見て、わが子が何を思い、何を伝えたいか、そこに関心が行かずに、他の友達と比べて、だいたい同じ出来栄えなら“安心”し、貧弱だったら、正直、“失望する”、そんな私自身がいました。横並びなら“安心”、秀でていたら“満足”という親心の構図です。けれども、製作は「表現」として、捉える活動です。

「先生が、イメージしたモノをクラスみんなが、だいたい同じ手法で、同じように作る」、これは「作業」です。ひと昔前ならいざ知らず、今後、《極彩色の超高度な情報社会》の中で生き抜く子どもたちにとって、教育効果は極めて乏しい! この考え方は、私たちの確信です。

6月、ある園で、0歳児から5歳児まで、すべてのクラスで“あじさい”をテーマに「表現」を試みます。そのクラス(学年)ならではの「物語」がどう創られるのか、わくわくどきどきです。

なぜなら、その経過と結果を7月にお知らせしようと密かに企んでいるからです。